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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)916号 判決

原告(第九一六号事件) 関高市

同 (第三〇〇七号) 関孝

右両名訴訟代理人弁護士 青木定行

同 矢生倫司

同 中野慶治

被告(両事件に共通) 品川ダイハツ株式会社

右代表者代表取締役職務代行者 小田久蔵

右訴訟代理人弁護士 入江正男

同 椎原国隆

同 雨宮真也

被告補助参加人(両事件に共通) 関登

外三名

右補助参加人四名訴訟代理人弁護士 小峰長三郎

同 柳田幸男

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、第九一六号事件について

(一)  請求原因(一)及び(二)の(2)の事実は、当事者間に争がない。

(二)  そこで、原告主張の各決議の存否につき判断する。

(1)  (本件株主総会の招集通知について)

≪証拠省略≫を総合すれば、昭和三六年一二月二五日、被告の取締役会において本件株主総会を翌年一月二六日に招集する旨の決議がなされたこと、被告の取締役である渡辺幸雄は、従来から、被告の代表取締役であつた原告関高市より、同人がなすべき会社代表行為中、株主総会の招集等、単に、取締役会の決議を執行するだけのものについては、これを代表取締役関高市の名において代行することをまかされていたこと、及び右渡辺は、かかる事情からして代表取締役関高市名義で、右取締役会の決議の趣旨に従い、丙第一一号証どおりの本件株主総会の招集通知をなしたものであることが認められる。

右認定事実によれば、渡辺は、関高市の従来からの委任関係に基き、同人の機関ないしは使者として招集通知という業務を執行したものであり、結局、本件招集通知が、代表取締役関高市の意思に基かないものとはいい難いので、右招集通知は、適法なものというべきである。

(2)  (招集延期の通知について)

1 原告主張のとおり、本件株主総会について、招集延期の通知がなされたことは、当事者間に争がない。

2 そこで、右延期通知が無効である旨の補助参加人の主張につき判断する。

原告主張の招集延期通知は、次の開催日を定めていないので、正確にいうならば、招集の撤回であるが、この意味における招集の撤回が適法になされるためには、取締役会の決議に基き、代表取締役会が各株主に対し招集撤回の通知をなし、右通知が各株主に、予定された総会開催期日の前に到達することが必要である。

従つて、もし、代表取締役が、取締役会の決議に基かず、一旦、適法になされた総会招集につき撤回通知をなしても、右撤回通知は適法なものということはできない。

しかしながら、このような撤回通知が不適法であるからといつて、直ちに、それが無効なものであると即断することはできない。

代表取締役が取締役会の決議に基かず、撤回通知をなしたとしてもその撤回通知を受取つた株主としては、撤回が取締役会の決議を経由したか否か、つまり、適法な撤回であるかどうかは容易に判別し難いから、適法な撤回通知としての外観―たとえば、通知の名義人が代表取締役となつていることなど―を具備する限り、適法な撤回があつたものと信ずるのが通常であろう。そうすると、かような撤回通知を、取締役会の決議がなかつたというだけで、無効とすることは、右のように適法なものと信じた株主の利益を著るしく害することになるから特段の事情がない限り、いわゆる外観主義の立場からかような撤回の通知も、不適法ではあるが有効なものと解するのを相当とする。

しかしながら、その会社の全株主が、当該撤回通知につき取締役会の決議がなかつたことを現に知つていた場合は、たとえ撤回通知があつても適法な撤回があつたものと信ずることはないのであるから、右に述べた所謂外観主義の原則を適用すべき理由は全くないものといわなければならない。従つて、このような場合における撤回通知は無効と解すべきである。

ところで、右延期通知が取締役会の決議を経ずなされたものであることは、当事者間に争がない。

≪証拠省略≫を総合すれば、本件株主総会当時、被告の株主は、丙第一五号証記載のとおり、合計二二名であり、その全員が、右延期通知が取締役会の決議を経ずほしいままになされたものであることを知つていたことが認められる。

ちなみに、原告は、篠田国市郎、福羅幸夫、池田猪市、舟木洋一、本橋八郎、本杉昭幸、小池敏雄、関勲、伊豆倉亮助、佐久間俊光の八名も被告の株主であると主張するけれども、株券発行前の株式の譲渡は無効と解されるので成立に争のない甲第八号証の1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、並びに証人有井兆彦の証言によつて株券発行前の株式の譲受人と認められる右篠田外七名は、被告の株主ではないといわなければならない。

(3)  (延期決議について)

本件決議がなされた総会の開催状況は、後記(4)に認定するとおりであつて、右事実によれば、原告主張の延期決議がなされたことを認めることはできない。

(4)  (本件総会における決議の存在について)

≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められる。即ち、昭和三七年一月二六日午前一〇時ごろ、招集通知書で指定された東京都品川区北品川二丁目一六八番地所在の被告会社本店の本件株主総会会場には、委任状を提出した東京ダイハツ株式会社(以下東京ダイハツという。)山城豊、近田福雄(その所有株式数合計七、四〇〇株)を除く被告の全株主(原告関高市外一八名)が参集したこと、原告関高市は、この際前記篠田国市郎ら八名を株主であると主張し、これらの者をも連れて会場に臨み、全員参集後その引き連れてきたもののうちの一人に、同原告が新らたに作成持参した株主名簿(甲第一〇号証)を読み上げさせて株主の出席をとつたこと。その後、被告の業務課長である有井兆彦が会社備付の正規の株主名簿(丙第一六証号)に基き、出席株主の確認を始めたところ、原告関高市及びその一派は、これを不満として怒号を発し、殊更、会場を混乱に導いた上、ほしいままに、「解散解散」といいながら退場したこと、右退場前には、同原告は、総会の開会を宣していないこと、並びに、退場した原告関高市、同関孝、及び桜田紀一を除く残留株主一六名(その所有株式数二、九四〇株。なお委任状を提出した株主を含めると、本件各決議に参加した株主の有する株式数は、一〇、三四〇株となる。東京ダイハツが被告の六、〇〇〇株の株主であることについては後記二、(三)(2)参照)は、本件株主総会を開催することとし、被告の定款第一二条により、社長事故ある場合として、株主たる取締役渡辺幸雄が議長となり、開会を宣した後、本件各決議をしたことが認められる。

右認定事実によれば、原告関高市その他退場した株主は自ら、総会における発言、議決の権利を放棄してほしいままに退場したものとみるべきであるが、仮に一歩譲つて、被告の代表取締役である原告関高市が「解散解散」と叫んだことにより、総会開会前、総会延期の宣言がなされたものと評価しても、右延期宣言は、その文字どおりの効果を生じないものというべきである、けだし、総会当日においては、招集権者は独断で総会の延期をなすことは許されず延期するか否かは、招集された総会にはかつて決すべきものだからである。

そうだとすれば、原告関高市ら三名の退場後、残留株主において、被告の定款第一二条により、取締役渡辺幸雄を議長としてなした本件各決議は有効といわなければならない。

(5)  (結論)

よつて、本件各決議は、適法に存在すると認める。

(三)  次に、渡辺幸雄が、被告の代表取締役であるか否かにつき判断する。

前記(二)の(5)の結論と、≪証拠省略≫を総合すれば、昭和三七年一月二六日、従前からの取締役渡辺幸雄、同近田福雄、及び同日選任された取締役池田友次郎、同関登、同斎藤吉治の出席のもとに開かれた取締役会において、渡辺幸雄を被告の代表取締役に選任する旨の決議がなされたことを認めることができる。

従つて、渡辺幸雄は、被告の代表取締役であるといわなければならない。

(四)  よつて、原告関高市の請求は、すべて理由がない。

二、第三〇〇七号事件について

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は、当事者間に争がない。

(二)  そこで請求原因(三)の1の点(定足数欠缺の主張)につき判断する。

(1)  被告の発行済株式の総数が一二、〇〇〇株であつたことは、当事者間に争がない。

(2)  ≪証拠省略≫を総合すれば、委任状を提出した株主を含め、本件総会における出席株主の有する株式数が合計一〇、三四〇株であつたことが認められる。

ちなみに、原告は、東京ダイハツは、被告の株主ではないと主張するけれども、丙第四、五号証(いずれも、証人井畑春治の証言により真正に成立したものと認める。)並びに、証人井畑春治及び同渡辺幸雄(第一回)の証言によれば、右東京ダイハツは、昭和三五年七月二九日の被告の新株発行の際、被告の株式六、〇〇〇株を引受けてその払込をしたことが認められ、又、右東京ダイハツと原告関高市との間に、東京ダイハツは、同原告が金三、〇〇〇、〇〇〇円を提供すればいつでも、右株式六、〇〇〇株を同人に譲渡する旨の約束があつたことは、原告の全立証その他本件全証拠によつても認めることができないので、右株式六、〇〇〇株の株主は、依然、東京ダイハツであるといわなければならない。

従つて、本件各決議の際、株主総会決議の定足数は満たされていたものというべきである。

(三)  次に、請求原因(三)の2の点(招集通知書における議題の記載方法を違法とする主張)につき判断する。

(1)  招集通知に、単に「一、取締役一名解任の件」となつていて、解任さるべき取締役の氏名の記載がないことは、当事者間に争がない。

(2)  取締役の解任決議の場合には、招集通知書中において、解任さるべき取締役を特定することが法の精神に適合するものというべく、従つて、その特定を欠く本件の招集通知は違法というべきである。

(3)  そこで、右瑕疵は決議の結果に影響がない旨の補助参加人の主張(四の(三)記載の主張)につき判断する。

≪証拠省略≫を総合すれば、当時の諸般の事情からして招集通知書でいう右解任すべき取締役一名とは、原告関高市を指称するものであること、同原告本人は勿論、その余の全株主においても承知していたものと認めるに十分である。

このように、すでに全株主が、招集通知書以外の事情により知り得た事実と招集通知書における記載とを総合して解任さるべき者の氏名を特定的に知り得る場合においてしかも、現実にその知り得た者の解任が議題となつてそれが議決された場合においては、右招集通知の瑕疵は、決議の結果に影響を及ぼさず、従つて、その効力を左右しないものというべきである。

(四)  よつて、原告関孝の請求は理由がない。

三、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九三条適用。

(裁判長裁判官 伊東秀郎 裁判官 武藤春光 宍戸達徳)

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